スタジオ防音工事・音響内装工事 設計指針

スタジオの防音工事・音響設計指針
by k.kurokawa


録音スタジオの場合は、室内で出す音が隣接する部屋や隣戸へ騒音にならないようにすること、隣室や屋外からの騒音が録音に支障ないようなレベルにすることが重要です。また、外部からの騒音対策や複数のスタジオが隣接する場合、各スタジオ同士での防音工事が、必要不可欠となります。ミュージシャンやエンジニアが、快適に演奏・作業でき、良い作品を製作できるような快適な空間をご提案いたします。


●防音工事の目標値



部屋の防音性能は、D値という遮音性能の等級で評価されます。D値と人の聞こえ方(感じ方)の対応はおおよそ下記表のような関係になっています。コントロールルーム間Dr-60~Dr-65、ブース間Dr-30~Dr-40、隣室は使用条件によって必要な防音性能は変わりますが、外部・その他隣室はDr-75~Dr-65が目標値となります。
スタジオ音響設計 遮音設計


●遮音等級Dr値



Dr値とは、JISで決められた遮音性能(防音性能)の評価方法です。下記のグラフに示すように、500Hzの遮音量を基準としたものです。JIS A 1419-1(2000)「建築物及び建築部材の遮音性能の評価方法ー第一部:遮断性能」に示される空気遮断性能を評価するための基準曲線の周波数特性と等級を用いて評価します。各周波数における測定値をプロットし、結んだ曲線に対して、等級曲線を全て上回る一番高い等級曲線をその等級と読みます。(各周波数最大2dB許容)図-1で示した例では、Dr-40となります。また、ここで読んだ遮音性能Dr値を表-1、2のような評価表(日本建築学会推奨基準)を用いて評価しています。
 一般の建物を設計する場合、遮音性能は、表-1の値を目標におこなわれます。マンション・雑居ビルなどでは、一級のD-50程度が標準的なものです。したがって、録音スタジオを作る場合は防音工事が必要となるわけです。
スタジオの防音 遮音等級D値
図-1 空気遮断性能(防音性能)
スタジオ防音設計 D値
表-1一般建物の設計遮音量


●録音スタジオの防音・防振構造



単一部材の遮音性能は、入射音の周波数と材料の面密度の対数に比例します。(質量則)つまり、材料の重量が増えると遮音性能があがります。しかし、質量則では、重量を2倍(同一材なら厚みを2倍)にしても6dBしか遮音量は増加しません。
 この質量則以上の遮音量を得るには、部材間に空気層をとった二重壁を構成することにより可能となります。また、この部材間の振動伝達を抑えることによりさらに防音性能が向上します。したがって、録音スタジオのような高度な防音性能が必要な場合は、防振設計が必要不可欠となります。また、音は空気を伝播してくるもの(空気伝播音)と壁・床・天井などの物体内を伝播するもの(固体伝播音)があります。固体伝播音は、その物体が振動することで音が伝播するので壁などを厚くするだけでなく防振構造(浮遮音層)が必要となります。特にいろいろなテナントが入る複合ビルなどで工事する場合は、床に伝播する振動に対して、防振構造が必要不可欠となります。
 苦情の発生している録音スタジオでは防振構造が無い、または十分でないことが非常に多いため注意が必要です。
録音スタジオの防音・防振構造
録音スタジオの防音構造 概念図



●防振設計・防振工事


防振材の種類は、防振ゴム、金属スプリング、エアーサスペンションなど様々ですが、録音スタジオの防音工事に使用される防振材は、ほとんど防振ゴムです。防振ゴムにもいろいろな種類があります。一般には円筒型防振ゴムですが、最近では、リングマウント・ボールダンパーのような質の高い防振材が主流です。ゴム、ポリウレタン系の防振パッド・シート、フォーム材に組込まれているタイプは簡易防振材で、性能を追及する防振・防音工事には不向きです。特に、マンション・ホテルなど静粛性が必要な複合ビルでは、防振性能が重要です。



防振材の選定


1.固有振動数Foを10Hz程度に設定


防振ゴムの設定は、防振したい周波数の1/3の周波数に固有振動数(f0)を設定します。10Hzに設定すると、30Hzぐらいから防振性能が発揮されます。ゴム、ポリウレタン系の防振パッド・シート、フォーム材に組込まれているタイプでは、10Hz程度に設定できませんので使用できません。特に、幼稚園などで使用されている、ホームセンターなどでも売っているような色々な色が着いた、緩衝材のポリウレタンを防振材として使用することは危険です。


2.固有振動数Foでの共振レベルが低いもの


固有振動数Foでは、振動レベルは増幅されます。このレベルが高い防振材では、映画館などの建築の防振材としては不向きです。通常の防振ゴムでは10~15dBですが、15~25dBと非常に大きな防振材もあり注意が必要です。この周波数付近でのレベルが増幅し、外部からの低い周波数の振動に弱く、上部での人の動きの揺れに問題が生じることもあります。


3.防振材の減衰特性


内部摩擦抵抗が少なく、共振点の増幅が大きく、なかなか減衰しない防振材は、バネ自体の縦振動による共鳴現象(サージング現象)を起こすため可聴域の防振効果が悪くなります。また、床の振動による共振音がマイクロフォンに入り問題が生じるため使用できません。内部摩擦抵抗が適度である防振ゴムの選定が必要です。